制度解説

特定技能の通訳・翻訳をどう確保する?企業の選び方と費用管理

特定技能1号の支援は、本人が十分に理解できる言語で行える体制が必要です。これは母国語に限りませんが、日常会話ができる、試験に合格したという理由だけで、雇用条件や苦情対応まで日本語で理解できると判断してはいけません。

企業は、社内の多言語担当者、外部通訳、電話・映像通訳、登録支援機関を場面別に組み合わせます。重要なのは「通訳者がいること」ではなく、必要な時間帯に、機密性と正確性を確保して支援でき、実施記録を残せることです。

十分に理解できる言語は母国語とは限らない

出入国在留管理庁の運用要領は、「十分に理解することができる言語」を、母国語に限らず、本人が内容を余すところなく理解できる言語としています。国籍だけで使用言語を決めず、読み書きと会話を分けて本人へ確認します。

採用面接の受け答えが日本語でできても、税、社会保険、退職、災害などの説明を正確に理解できるとは限りません。説明後に本人自身の言葉で要点を言い返してもらい、理解できなければ通訳を手配します。

特定技能1号の支援全体に対応できる体制を持つ

1号特定技能外国人支援計画を適正に実施するには、本人が理解できる言語による情報提供と相談の体制が必要です。運用要領別冊は、事前ガイダンス、生活オリエンテーション、相談・苦情への対応、定期面談を、理解できる言語により行うことを求めています。誤解が在留・労働上の不利益に直結します。

10の義務的支援ごとに、必要な言語、予定日時、担当者、緊急時の連絡先を決めます。本人から相談が来てから通訳者を探す運用では、必要な支援を適時に実施できません。

本人の日本語力と場面の難しさで通訳要否を決める

通訳の要否は、日本語試験の級だけで一律に判断しません。同じ人でも、日常の買物は日本語ででき、労働条件の変更や医療相談には通訳が必要ということがあります。

次の場面は、本人が日本語対応を希望しても理解を確認します。

  • 雇用契約や給与控除の説明
  • 在留・社会保険・税の手続
  • 労災、病気、災害への対応
  • 退職、転職、帰国、住居退去の説明
  • 相談、苦情、ハラスメントの聞き取り

専門用語の少ない日常連絡は、やさしい日本語と図で補えます。ただし、表現を簡単にすることと、法的な内容を省くことは別です。

社内通訳は対応範囲と中立性を確認する

多言語対応できる社員を配置すると、日々の相談へ早く対応でき、職場事情も共有しやすくなります。一方、通訳を本来業務に上乗せすると、繁忙時に支援できない、担当者の退職で体制がなくなるという問題があります。

言語、対応時間、代替者、通訳できない専門領域を一覧にします。上司や同僚が通訳すると、本人が職場への苦情を話せない場合もあります。ハラスメント、賃金、健康など機密性の高い相談には、利害関係のない通訳者を用意してください。

外部通訳は事前に利用条件を決める

外部通訳の個別手配は、言語と専門分野を選びやすい一方、予約締切、最低利用時間、移動、取消し、夜間対応で条件が変わります。単価だけでなく、依頼から利用までの総額と対応可能時間を比較します。

秘密保持、個人情報の扱い、録音の可否、再委託、事故時の連絡を契約で確認します。依頼時には、目的と専門用語を事前共有しますが、必要のない在留カード番号や病歴まで送らないよう情報を絞ります。

電話・映像通訳は緊急時と短時間対応に使う

電話や映像による通訳は、遠隔地や急な相談に対応しやすく、複数言語の待機体制を組みやすい方法です。本人確認を伴う手続、書類を見ながらの説明、現場の設備案内では、映像や画面共有が必要かを確認します。

通信が切れた場合の代替手段、周囲に会話を聞かれない場所、本人と通訳者の本人確認を決めます。運用要領別冊は翻訳機の活用も認めていますが、込み入った相談・苦情対応には通訳人の介在が不可欠とし、詳細な聞き取りではプライバシー保護と正確性の観点から通訳の確保を求めています。

登録支援機関へ委託する場合も言語体制を見る

支援の全部または一部を登録支援機関へ委託できます。選定時には、登録の有無だけでなく、対象言語、対応時間、地域、担当人数、緊急時、交代時の引継ぎを確認します。選定の観点は登録支援機関の選び方も参照してください。

登録支援機関は、受託した支援業務をさらに委託することはできません。ただし、支援を自ら実施する際に、通訳人などの履行補助者を活用することは認められています。企業は、誰が支援の責任を負い、誰が通訳するのかを契約書と実施記録で区別します。

義務的支援の通訳費用は企業側が負担する

入管庁の特定技能制度に関する質疑は、必要な通訳人の確保は受入れ機関が実施すべき支援に必要なため、その費用を受入れ機関が負担するとしています。義務的支援の通訳料を本人の給与から控除しないでください。

見積りは、社内担当者の人件費、外部通訳の利用料、遠隔通訳の契約料、移動、夜間、取消しを分けます。1回の単価ではなく、対象者数、言語数、定期面談、緊急対応を含む年間総額で比較します。

翻訳文は原文との対応と更新を管理する

翻訳は、規則、雇用条件、生活案内を本人が後から読み返すために有効です。ただし、翻訳文だけを保管すると、どの日本語原文に対応するか分からなくなります。

原文の名称、版、作成日、翻訳言語、翻訳者、確認者を記録します。賃金、勤務時間、連絡先、制度が変われば翻訳も更新します。機械翻訳を下訳に使う場合は、人が原文と照合し、氏名、日付、否定表現、金額、義務と任意の区別を重点的に確認します。

通訳を含む支援実施記録を残す

支援計画の作成と実施記録には、対象者、実施日時・場所、内容、方法、担当者や通訳人の氏名・所属などを残します。本人が理解したか、質問へどう回答したか、次の対応期限も記録します。

通訳者が訳したという事実だけで支援の適切性が証明されるわけではありません。企業または登録支援機関の担当者が説明主体となり、通訳者へ判断を丸投げしない運用にします。

通訳手配の確認チェックリスト

  1. 本人が読む・話す・聞く各言語を確認したか
  2. 支援場面ごとに通訳の要否を決めたか
  3. 通常時と緊急時の手配先があるか
  4. 機密相談に中立な通訳者を使えるか
  5. 費用項目と負担者が明確か
  6. 翻訳文の原文・版を管理しているか
  7. 通訳人を含む実施記録を残しているか

FAQ

Q1. 必ず本人の母国語で支援する必要がありますか? → 母国語に限りませんが、本人が内容を余すところなく理解できる言語である必要があります。国籍や日本語試験だけで決めず、場面ごとに理解を確認します。

Q2. 通訳者を社員として雇う必要がありますか? → 必須ではありません。必要なときに外部通訳等を確保できる体制でも差し支えありません。ただし、必要な時間帯に確実に利用できる契約が必要です。

Q3. 同僚に通訳してもらってもよいですか? → 応急的な対応はあり得ますが、苦情や健康情報などの詳細な聞き取りには、プライバシーと正確性を確保できる通訳者を手配してください。

Q4. 義務的支援の通訳料を本人に請求できますか? → できません。義務的支援に必要な通訳人の確保費用は、受入れ機関側で負担します。

まとめ

特定技能1号の通訳・翻訳は、母国語かどうかではなく、本人が内容を十分に理解できるかで設計します。社内、外部、遠隔の方法を場面に応じて組み合わせ、機密性の高い相談には中立で適切な通訳者を確保します。

義務的支援の通訳費用は企業側の負担です。料金だけでなく、言語、専門性、対応時間、緊急時、記録までを比較し、説明主体と通訳者の役割を分けてください。

参考リンク

外国人材の日本語教育を、AIで

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